6月に入った、
今年は、空梅雨らしく、雨の降る気配がない。
テレビでは、『異常気象』という言葉が連日のように飛び交い、言葉の価値を小さくしている。
今日も授業が終わった。
いつものように太田と小田が、つき従うように並んで教室を出た。
下駄箱近くに来たところで、呼び止める声――-。
「おい!転校生!」
虚勢を張った声。
その声には、聞き覚えがある。
「橘!てめえのことだよ!」
間違いない!以前、呼び止めてきた不良グループの下っ端君だ。
橘は、振り向き、声の主を見る。
相変わらず凄んではいるが哀れなほど迫力は感じられない。
橘は、前回、話をスルーした経緯があるため、多少気が引ける思いがある。
そんな思いをめぐらす橘に対して、太田、小田は、黙り込んでいる。
その姿を視界の端に捉えながら、橘は、歩みでた。
それに反応して、下っ端君は、再び虚勢を張りなおした。
「てめえ〜今度、逃げたら承知しないからな!」
うわずった声が、響く。
橘は、『仕方ないな…』と苦笑いをして、一言。
「わかりましたよ」
と缶ジュースでも買いに行くかのような気楽さで、下っ端の不良についていった。
残された太田と小田。
二人は、ただ見ていることしかできなかった。
不良達の下っ端に校内でも有名な転校生が、あとに続く。
絵としては、不思議な構図だ。
すれ違う人は、『おかしい』と思いながらも、それ以上干渉してくることはない。
皆、面倒なことには近づかない。
そんな周りの空気を受け流して、いくつかの質問を下っ端君にあててみた。
それにより状況のいくつかが分かった。
まず、呼んでいるのは、3年の高橋という人物らしい。
高橋は、この学校の不良の実力者であり、渋谷周辺を中心として、他校の不良や無職の少年達とつるんで悪さをしているそうだ。
それを自慢げに話す下っ端君には、正直、あきれることしかできないが…。
そんなやりとりをしていると目的地である体育館裏に到着した。
『定番な場所だな…』
橘は、心の中で呟いた。
先のほうには、それらしき学生が5人、たむろしている。
その集団に下っ端君は、小走りに駆け寄り、ペコペコと頭を下げる。
くだらない光景…。
橘にとっては、その程度にしか思えない。
未熟な者同士が、小さな世界で虚勢を張り合う…。
所詮は、その程度のこと。
その者たちが、ポケットに手を突っ込みながら向かってくる。
「てめぇが、橘か……!?」
低い声。少し離れた距離で一人が声をかけてきた。
橘が自然体で答える。
「そうですが……何か?」
そう答えたとたん別の男が、切れ気味に声をあげた。
「何か…?ああっ!?転校してきて挨拶が無かっただろうが!」
「挨拶……?」
たんなる難くせである。
あきれてモノも言えない。いや、言うことさえくだらないと思えてくる。
橘は、てみじかにことを終わらせようと、単刀直入に切り出した。
「僕に用件というのは?」
物怖じのない言葉。6人に囲まれる現状であっても緊張はない。
その態度は、少なからず不良達に影響を与えた。
いつもと違う状況に戸惑う者、その態度に生意気であると苛立ちを覚える者……。
不良たちのリーダーである高橋は、後者であった。
「用件は、何だ?……だと、生意気なこと言うじゃねぇか!用件は……」
言葉が終わる前に高橋は、橘の足を思い切り蹴りあげた!
鈍い音が響く。
『バキッ!』
続いて呻き声がもれる。
「グゥ…」
呻き声があがる。
そして、右足を抱え跪(ひざまず)き、小刻みに震えながら、痛みに耐える。
「てめぇ……」
いきりたつ不良達。
よほどのダメージを負ったのか立ち上がることもできない。
駆け寄る不良達。橘を睨みつける。橘を…。
そう。
ダメージを受けたのは蹴りを打ち込んだ高橋の方だった。
なぜ?
仕組みは、単純である。
橘は、高橋の蹴りに対して、かかとをあわした。
人体の中でも非常に硬い部分であるかかとに蹴りを打ち込めば、結果は明らかだった。
うずくまり苦しむ高橋。
何やら叫ぶ仲間がいたが、向かってくる者はいない。
その場にいる者達の意識が、高橋に集中したことを確認すると橘は、その場を去っていった。
体育館の裏から表側に出て行くと小田の姿があった。
小田は、橘の姿を見つけると勢いよく駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫か…?今、太田が、先生を呼びに行って……」
ひどく狼狽している。一応、心配はしてくれていたらしい。
橘は、ふと試したくなり、恨めしそうに
「助けに来てくれないんだ……。」
と呟いてみた。
「いや……あの…」
戸惑い、言葉を失う小田。
さすがに悪い気持ちになり、笑みを作りながら
「冗談だよ。」
とタネをばらした。
「な、なんだよ〜脅かすなよ〜」
小田は、安堵の表情を浮かべ笑いをひきつらせた。
その笑いを橘は、確認して歩き出した。
そして、誰にも聞こえない声で
「くだらない…」
と吐き捨てた。
...to be continued.
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